約 1,077,090 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1861.html
「諸君、私は料理が好きだ…むにゃむにゃ…」 「おい、起きろ」 へんじがない。ただのねむいひとのようだ。 「おい、起きろ」 二回目のコール。しかしやはり、返事は無い。 無言で管から作った空気の渦を、枕もとに飛ばす。 ルイズはその衝撃で目を覚まし、ワムウを睨みつける。 「あんた!あれほどいったでしょ!また枕一つダメにして!」 無残な枕だったものをワムウにぶつける。 「朝早く起こせといったのはお前だろう、シエスタと出かけるんじゃなかったのか?」 「そうよ!何でそれを早く言わないのよ、さっさと着替えさせなさ…あんたに期待したら服がいくつあっても足りなかったわね……ああ、もうあんたは出かける準備しときなさい」 昨夜に服を片付けさせようとして引きちぎられていたルイズはワムウの家事能力について大分理解してきていた。 「俺も行くのか?」 「ああ、あんたは昨日の夕食のときいつのまにか居なくなってたわね。あの超絶的ダイナマイト一食爆発的雑味えぐ味ゼロ的格別デザート的天使的至高快感的今世紀最大的料理人のマルトーさんの料理を楽しまなかったなんて始祖ブリミルから天罰が下ってもおかしくないわ。今思い出してもヨダレずびっ!だわ!歯が飛び出たりしたときはびっくりしたけど」 昨日の回想に浸り始めるルイズ。 ワムウは無視して質問を続ける。 「だからなぜ俺もいくんだ?お前らは湖に行くんだろう?危険があるにしても俺を頼るな」 「違うわよ、昨日シエスタに急な用事が入って街に行かなくちゃいけなくなったから、一緒にいくことにしたの。 あんたも私の使い魔になった以上、この辺の地理とか常識をしっておいてもいいでしょ?」 「別に地理や常識などに興味は無いが、こちらの世界の武器は気になるな。戦闘はやはり魔法主体なのか?」 「前線に出てくるメイジなんて数が知れてるから、武器くらいあるわよ。むしろ魔法で武器を強化しているからあんたのところのなんかよりたぶんずっと強力よ!あんたんとこに錆びない剣だの喋るグラブなんてなかったでしょ?」 ワムウは少し考え、承諾した。 「わかったなら荷物でもまとめときなさい、使い魔なんだから荷物もちくらいしなさいよ、それくらいできるでしょ?」 ルイズは財布となにかがいくつか入っているカバンを指差した。 * * * 「あら、待たせちゃった?」 既に三頭、馬が校門の外につながれていた。 「い、いえ、そんな滅相も無い!」 待たせたという言葉に過剰反応するシエスタを見てフフフと笑う。 「でもいいんですか?私だって馬車なら操れますよ?わざわざ一人一頭乗馬でいかれるなんて…」 「たった3人で街行くだけなのに馬車なんか一々出してどうするのよ、これでも私乗馬は特技なのよ? 心配するならこいつが馬に乗れるかどうかの方を心配したほうがいいわ、あんた乗馬経験あるってほんとのほんとよね?」 「ああ、何度かな。もっとも、普通の馬ではないが」 「そんなことだろうと思ったわ。とりあえずあんたでも乗れそうな一番でかい馬を頼んだけど…シエスタ、私の馬はどれ?」 「えーと、ルイズさんの馬はそこのヴァルキリーっていう馬で、私の馬はその鹿毛の馬で名前はストライクイーグル だそうです。ワタライ牧場生産って書いてありますけど…シズナイってどこだか知ってます?」 「うーん、聞いたこと無いわね」 「そうですか、私も聞いたことないと思ったらどうやら東方生まれらしくて…ちょっと怖いです」 「大丈夫よ、馬に東も西もないわよ。それで、ワムウのは?」 「えーと、もうすぐ来るみたいで……あ、来ました!」 ズシン、ズシンと重々しいを立てて、巨大な黒い馬がやってきた。 「…ほんとに、これ馬?」 ルイズがポカンと口をあけて馬を連れてきた人に尋ねる。 「ええ、気性が荒すぎてこの世話をできるのはあっし一人だけなんで止めたんですが…」 御者は語尾を濁す。 ワムウが前に出て、馬に近寄る。 「あ、あんたもかなりでかいですなあ」 そして、ワムウは首に手を当てる。 唸っていた馬が急に静まる。 「あれ?大人しくなったわ?」 「この馬でいい、出発するぞ」 ワムウは巨馬にまたがり、馬は歩み始めた。 「ちょ、ちょっと!待ちなさいよ!ほら、シエスタも乗って乗って!」 * * * 虚無の曜日。なにげなく外を見ていたキュルケがワムウとルイズと一人のメイドが出かけようとしているのを見つける。 キュルケは部屋を飛び出した。 鍵のかかっている部屋を無理やり『アンロック』であける。 部屋の主にサイレントをかけられるが、相手も根負けしてサイレントを解く。 「タバサ、今から出かけるわよ!早く支度をしてシルフィードを呼び出して!」 「虚無の曜日」 反論の意を示されるが、そんなことは知ったことではない。 「あんたにとって虚無の曜日はどういう物かわかってるけど緊急事態よ!エマージェンシーよ!スクランブルよ!」 しかしタバサは首を振る。 「あのゼロのルイズの使い魔とルイズとメイドが出かけたのよ!たぶん誰もいない森の中で二人を丸呑みするに違いないわ!早く追いかけないと!」 「ルイズが、心配?」 「ち、違うわよ!学院から人死にが出るのが嫌なだけよ!あんたのシルフィードじゃなきゃ追いつかないんだから!」 しょうがないか、と言わんばかりにうなずき、窓の外に向かって口笛を鳴らす。 * * * 「へー、シエスタはタルブの村の出身なんだ、どんなところなの?」 「自然に囲まれてて、すごい綺麗なところですよ。田舎って言われればそれまでですけどね」 シエスタはえへへと笑う。 「そんなところなんだ、一度いってみたいわね。どれくらいの距離なの?」 「馬で数日くらいかかると思いますよ、だからあんまり頻繁に帰れなくて送金とかは街で頼まないといけなくて…今日もそれの手続きが急に入ってしまって……」 「その年で家計を支えてるんだ、やっぱりすごいわねシエスタは。私には考えられないわ」 「そんな、貴族と平民では生活も変わりますから、それが当然ですよ。ルイズさん達は将来立派な貴族になるためにここで学んでいるんですから。それを私たちが支えられるっていうのは私にとっても嬉しいですよ…あ、街が見えてきましたよ!」 町の入り口にある馬停所に馬を止め、シエスタは少し時間がかかるということで少しの間別行動ということにした。 「ルイズさんは寄るところあります?」 「そうねえ、特に無いけど……そういえばワムウが武器を見たいって言ってたわね、そこの武器屋で待ってるわ」 「はい、わかりました。大体15分もあればいけると思います」 といってシエスタは街の中心部に歩き出した。 「さ、ワムウ行くわよ」 ルイズは武器屋の扉を開ける。 「いらっしゃいませ……おやおや、貴族様ですか、いったいなんの御用で?」 髭を生やした三十後半から四十歳台くらいの店主が声をかけてくる。客はいないようだ。 「こいつが武器に興味があるらしくて」 「おや、そうですか。色々と揃えておりますよ、もちろん冷やかしでも構いませんよ。どんな武器をご所望で?」 「そうだな、こちらの世界の武器をあまり知らんからな、オードソックスな奴を見せてくれ」 「オードソックスな武器ですか、コレクションを披露できなくて残念ですな。世界の妖しげな武器を集めるのが趣味の一つでしてね、こうして趣味が高じて武器屋をやっているわけですが……」 「どんな武器があるのよ?」 ルイズが口を挟む。 「人心を操る剣はもちろん、刃物付帽子、妖怪を封じていた槍、三方向に攻撃する妖刀……珍しいところでは正義の算盤や八岐大蛇の尾から取り出した剣、こんにゃく以外ならなんでも切れる剣などなんでもありますよ……お値段は張りますがね」 「いくらくらいなのよ?」 「ピンキリですが、私のコレクションは端金じゃ売れませんな。正義の算盤なら五千エキューというところでしょうか」 「高すぎるわよ!何年遊んで暮らせるのよそれ!」 「もちろん買われなくても結構です…コレクションを売るとしたらそれくらいは必要、という例えですよ」 店の棚を物色しているワムウが手を止める。 「これは…剣はあまり詳しくないが素晴らしいな」 「お客さん、お目が高い。それは東方のニッポーネというあの技術立国で作られた名剣でございます…それを作った剣職人はあの有名なホンダソウイチロウでして…コレクションではありませんが名剣には間違いないですな」 「いくらだ?」 「三千エキューですな、新金貨なら四千五百で」 「エキューというと、この金貨か?」 「ええ、それが三千枚です」 「ちょっとワムウ、あんた、何に手出してるのよ!いっとくけど私は剣に五百エキュー以上払う気はないわよ」 「俺の金を使う。なにぶん臨時収入があったんでな、だがさすがに三千はない」 「ふむ、それは残念ですな……ですがお客様はわかってらっしゃる…普通の人間とはオーラが違うようですし……そうですな、私の趣味の一つはコレクションと言いましたがね…私はギャンブルにも目が無くてね、どうです? その剣を賭けて私とギャンブルでもいかがでしょうか?」 その提案にルイズがそんなの認められない、とばかりに 「ギャンブルなんて無理よ!負けたとき三千エキュー払え、なんていわれても私は嫌よ!」 反論するが 「負けたときに金はいりません…私は生まれついての『賭け師(ギャンブラー)』!私はあなた達のような『魂』を集めるのがコレクションで…もっとも『魂』を集めると言うのは比喩のような物だと思って構いません… ギャンブルは精神と精神の戦い!いわばギャンブラーは戦士!勝利したときには相手の魂を得るといっても過言ではありません さあ!あなたがギャンブルを受けると言うのならば!『魂を賭ける』とおっしゃってください」 「いいだろう、魂を賭けよう」 ワムウは即答する。 「グッド!お名前はなんといいます?…おっと、名前を尋ねるならばこちらから名乗らなければ…私の名前は『ダニエル・J・ダービー』と申します……」 「ワムウだ」 「ワムウ様ですか、いいお名前ですな」 鈴の音が鳴り、外の風が入ってくる。 「あっ、シエスタ、用事は終わったの…ってなんでキュルケ達までいるのよ!」 「あんたが食われるかどうか見物に来たのよ!でもあんたアホじゃないの?その使い魔のために武器屋に寄るなんて盗人に追い銭どころか強盗に拳銃よ!なに考えてるのよ!」 「別に買うわけじゃないつもりだったけど……なんか変なことに巻き込まれそうでね」 店主がキュルケに話し掛けてくる。 「いらっしゃいませ……その通り、少々取り込み中でね、注文をするなら後にしていただけますかな?」 キュルケは怪訝な顔をする。 「なにをする気なのよ?」 ルイズが説明をする。 「ギャンブルだって…勝ったらそこのホンダなんとかの剣を貰えるんだって」 それを聞いてキュルケは顔を変える。 「ホンダって…あのホンダ?ゲルマニアでもあんな剣は作れないわよ!店主、私もそれに乗せなさい!」 「いいでしょう…しかし2人というのは中途半端ですな……せっかくですから、5人乗りませんかね? 聞けばその男性は使い魔とおっしゃる……使い魔と主人は一心同体…乗るならば『魂を賭ける』とコールしてください」 「仕方ないわね、私も乗るわよ『魂を賭けるわ』」 「ルイズさんが乗ると言うなら私も…『魂を賭けます』」 「私も『魂を賭けるわ』、タバサはどうするの?」 「ギャンブルなら少しは慣れてる…『魂を賭ける』」 「グッド!5人揃いましたな!では、準備してくるので少々お待ちを…」 ダービーは中に去っていく。 キュルケが尋ねる。 「ギャンブルって、何するのよ」 「知らないわよ」 「はあ?何するかもわからないのに受けたの?バカじゃないの?」 「あんたも同じでしょ」 いがみ合っている間に、ダービーが戻ってくる。 「お待たせしました…四人ならば麻雀やトランプなどもいいですが…説明がまどろっこしいのは避けたいところです…そこで、こんなものを用意しました」 ダービーが持ってきたのはテーブルと、12枚のカード。 「名づけるならば…『限定ジャンケン』!」 「なによ、その限定ジャンケンって。ジャンケンは知ってるけど」 「その通り、普通のジャンケンを知っていれば誰でもわかるゲームです…しかし少し説明の時間を頂こう。 この6枚のカードをどうぞ」 それらには『グー』『チョキ』『パー』とその絵柄が書かれていた。同じカードが二枚ずつある。 「ご存知の通り、このカードでジャンケンをして頂きます…カードの数と内訳は私も貴方達も同じです… これで、『5回』ジャンケンをしていただきます」 「普通のジャンケンとはどう違うのよ?」 「一度使ったカードはもう二度と使えません…ですから最終的に一枚だけ余る、ということです」 「余ったカードはどうするの?」 「カードを余らせるというのは、最後のジャンケンで両者残り1枚、勝ち負けがわかっているという状況を避けるためです。やる前から勝負が決まっている勝負ほど興が削がれるものはありませんからな」 そしてチップを十枚、袋から出してくる。 「これを五枚、貴方達に渡します…一枚が魂一つと考えてください……私のチップも五枚、ただし私の魂が一枚、残りの四枚があの剣の分です。終わった時にこの剣のチップが一枚でもそちらにあれば潔く渡しましょう」 受け取ったチップには一人一人の似顔絵が描かれていた。 「説明が長くなりましたな…では始めましょう。最初は誰です?」 「俺が行かせて貰おう」 ワムウがテーブルの前に立つ。 「グッド!あなたの出すカードが決まったら裏にしてテーブルに置いてください…両方が置いたら一斉にめくります。 私は……そうですな、最初は武器屋ですからな、刃物を意味するチョキにすることにしましょう」 ダービーが揺さぶってくる。 が、ワムウはポーカーフェイスを崩さない。 「そうか、では俺はこれでいこう」 ワムウはカードを伏せ、自分のチップを横に置く。それに応じてダービーも裏のカードとチップを置く。 「では…オープン!」 ダービーが出したのは……『パー』。 それに対して、ワムウが出したのは……『グー』! 「MOOWWWWW!!貴様、騙したな!」 「言ったでしょう、ギャンブルとは戦い、戦場で後ろから刺されたと言っても文句をいえる相手はいませんよ」 「そうよワムウ、あんた単純すぎるのよ!あんなの信じるほうがバカなのよ!次は私がやるわ!」 「グッド!では次は今勝ちましたし…ゲンのいい『パー』にしましょうか…」 ルイズは不適に笑う。 「フフ、ワムウには通じたかもしれないけれど、私には通用しないわよ?」 そうして笑みを残しながら裏のカードとチップを置く。 「そうですか…そんな相手と戦えるとはギャンブラー冥利につきますな、では私はワムウを賭けましょう」 同じくチップとカードをテーブルに置く。 「では……オープン!」 ルイズが出したのは…またもや『グー』 それに対してダービーは……… 『パー』! 「ニ勝目とは幸先がいいですな……では『ルイズ』も頂きましょう」 「そ、そんな…」 愕然とするルイズにワムウが文句を言う。 「お前はひねくれすぎている」 「二連敗しているというのにずいぶんと余裕ですな、皆様。魂を賭けていると言うのに…」 ダービーはニヤリと笑い、続ける… 「私、一つ嘘を言っていましてね…『魂』を集めると言うのは比喩のような物だと言いましたが… 実は比喩ではありません…生まれながらの能力で…私は『オシリス神』と呼んでいますが… 私の能力は『負けを認めた相手の魂を文字通り奪い取る』!そのチップはいわばあなたの魂そのものなんですよ! もし、あなた達が負けたら…私のコレクションとなってもらいます」 ダービーはアタッシュケースを開ける。 そこには顔のついたコインが並んでいた。 「これはリチミエミエ…四暗刻のミエと自称していましたが大した事はなかった…これはヤマサキカズオと言ってね… 隣にいたリエコというのは敵ではありませんでしたが、このカズオは実に強かった!実際負けそうになりましたからね… さて、このコレクションにメイジと使い魔が増えると言うのも実にいい!では続けましょうか…」 負けても特にデメリットはない、と思っていた彼らの空気が凍りつく。 「ちょっと!騙したの!」 「そんな人聞きの悪い、あなたたちは『魂を賭ける』と言ったはずです。負けても何も失わないなんてギャンブルではない!」 「そんなに言うなら次は私が…」 キュルケが行こうとするが、それを制してタバサが前に出る。 「キュルケは熱くなってる。熱くなったら負け」 「ほう、なかなか歯ごたえのありそうな相手がでてきましたな」 「ダービー、あなたは嘘をもう一つついている」 タバサは杖を振る。ダービーの後ろの壁が凍りつく。 「イカサマは認めない」 「ほう、なんのことやら…」 ダービーは表情を崩さない。 タバサは自分たちのカードを見せる。 「グーとチョキの右上の角に切り込みが入っている。グーは1つ、チョキは2つ」 ダービーはニヤリと笑う。 「よく気づきましたな、ここからが本当の勝負と言うわけですな」 ルイズが喚く。 「ちょっと!イカサマしてたなんんて卑怯よ!」 「なにをおっしゃる…イカサマを見抜けなかったのは見抜けない人間の敗北なのです… 私はね、賭けとは人間関係と同じ……騙し合いの関係と考えています。泣いた人間の敗北なのですよ」 イカサマを見破られたと言うのにその態度は変わらない。 そして新品のカードの入った箱を取り出す。 「これは見ればわかるようにまだ未開封、あなた達が開けて調べてもらって構いません。なんなら魔法でも」 といってタバサにそれを渡そうとする。 しかしそれを受け取らない。 「別に調べない。ただイカサマをしていたんだから次からは貴方から先にカードを出してもらう… それと、私たちが魂を取り返せなかったらもう一戦受けてもらう」 「グッド!では再開しましょうか!」 現在のタバサのカード チョキ チョキ パー パー 現在のダービーのカード グー グー チョキ チョキ * * * こんな小娘にイカサマがバレるとは思っていなかったが…なかなか面白くなってきた! 二勝先行した以上チョキを二回出しグーを出せばこちらの勝利は確定している…が、こいつらの魂を剥げるだけ剥ぐのも面白い!残り三戦、全勝するのも悪くは無い! さすがに前のバカどもと違い、こちらのカードがチョキを出せば負けないくらいはわかっているはず… その裏をかいて!ここは『グー』を出す! 「ふふ、私は『ワムウ』を賭けましょう、セット…」 「セット」 両者のカードが揃う。 「では…オープン!」 タバサのカードは…… 『パー』! 「一勝」 「ほう、なかなかやりますな、しかし私がまだ一勝残っている…そちらが全て取り返すのは難しいのでは?」 「次につなげる」 「ふふ、それもいいでしょう」 あそこでパーを出すとはなかなか図太い…図太いがギャンブルには繊細さ、臆病さも必要…次何がくるかわからん…様子見にここは『チョキ』!図太すぎるならばここで落ちる! 「今度はルイズを賭けましょう……ではセット!」 「セット」 タバサもカードを置く。 「オープン!」 カードが開かれる。 タバサのカードはチョキ。あいこである。 「一勝一分け」 「次でラストですな、そちらのカードはチョキとパー、こちらはグーとチョキ…なかなか面白くなってまいりましたな」 ここでチョキを出してくると読んでくるとは…こいつ、ギャンブルに慣れているな……だが、それならばむしろ読みやすい…下手な勝負に出てくる素人より、勝負の理由のある経験者のほうが読みやすい… 次につなげると言っていた以上、ここで奴は負けるわけにはいかんだろう…… ここは!勝負に出る! 「もう一度『ルイズ』を賭ける!セット!」 「セット」 全員が緊張する。 「オープン!」 ダービーは『グー』! それに対しタバサは……… 『パー』! 「二勝二敗。引き分け」 「ここでパーを出してくるとは、なかなかのギャンブラー…気に入った!あの剣はあげれんが…そうだな、健闘賞というところか、ワムウでしたな、この剣を二百エキューでお譲りしましょう」 そういって錆びた剣を棚から出してくる。 「なによ、このボロ剣」 「てめえダービー!なにが残念賞だ!そこの娘っ子もなにがボロ剣だ!誰がお前らなんかに使われてやるもんかい!」 ルイズが少し驚く。 「これってインテリジェンスソード?」 「そのとおりです…少々珍しいので集めたのですが、雰囲気が妖刀魔剣からは遠いものでしてね、お譲りいたしましょう」 ワムウは剣を握る。 「おどれーた。てめー使い手か。前言撤回だ、俺を使いやがれ」 「譲ると言うんだから貰っておこう、二百エキューだったな」 ワムウは金貨をテーブルに置く。 「まいどありがとうございます、どうぞごひいきに…ギャンブルはいつでもお受けしますよ」 「もう勘弁よ」 ルイズ達は出て行った。 「…それにしてもタバサ、あんた結構図太いわね」 キュルケが呆れたように言う。 「見抜けない人間の敗北。自分で言っていた」 「ま、さすが雪風のタバサよね」 イカサマを見破ったときに出した氷。 ただの氷ではなく光を反射しやすくした氷だった。 その氷を鏡にしてダービーのカードを覗き込んでいたのだ! 渡されたカードを確かめなかった理由もその氷が溶ける前に勝負を終わらせたかったからだ。 「黒い壁だったからやりやすかった」 ルイズが背を伸ばす。 「あーもう疲れちゃったわ。シエスタ、こんなことに巻き込ませてごめんね。どっか行くところある?」 「そうですね…お昼にでもしませんか?」 「あら、いいわね」 「あたしがいい店知ってるわよ」 キュルケが口を挟む。 今日のトリステインは平和であった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/582.html
最近、どうも私の性格が捻曲がっている… 思い出せ!ジョージ・ジョースター! 呼吸を整えろ! 自然と一体になれ! 常人には理解できぬ動きから… 「ACT.3…って違う!」 【逆に考える使い魔】 30分後… コォォォォォォオオオ! さすがに半世紀も使わぬと錆ついているな 私が、まだヤンチャだった頃に出会った修業者、名はトンペティだったか… 彼と共に修業し体得した波紋… 2日で老いを止めるに至ったのは秘密だ 目を閉じれば思い出す… 指先で絶壁を登る荒業を、二人で勘違いして足の指先をウネウネ動かして登り切ったことを… なに?なぜ、イキナリ過去の話しで波紋が出てくるのか? 逆に考えるんだ、『回想は全て伏線だ』と考えるんだ 続けて質問?伏線だとバラすのは何故か? 逆に考えるんだ、『それも伏線だ』と考えるんだ 電波か… 波紋の修業を終えた直後、拉致られて逆さ釣りにされたが特に語ることはない 土くれのフーケ? 怪盗? アレかね?召喚された翌日に人知れず自爆した女性かね? そ~いえばロングビルとかナントカが失踪したと聞いたな…どうでも良いがな そんなことを犬神家状態のまま考えている私であった…誰か回収してくれ 結論:フーケ編はスキップされました
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1931.html
遂に艦隊出撃し、どこか人が少なくなったような首都トリスタニアをお馴染みのローブで身を包み歩いているのは、ご存知…もとい久しぶりのフーケだ。 「はぁ…わたしもヤキが回ったかね」 そう呟いたのは、今頃部隊を率いてある場所に向かっているある男のせいだ。 フーケ自身は、裏の情報を生かしトリステインの内情を探るという事で別に動いていたが、正直乗り気ではない。 一応の義理はあっても義務は無いし、あの男を嫌悪しているというのが大きいだろうが、それでもやらなければ己の身が危ないのだ。 そろそろ、合流するかとして人通りの少なくなった通りを歩いていると、後ろから肩に手を置かれた。 ロングビル時代の習慣で蹴りが飛びそうになったが、目立つと不味いので耐える。 「悪いけど、わたしはあんたみたいなヤツは知らないよ。向こうへ行きな。蹴り殺すよ」 少なくともこんなヤツに肩に手をおかれる覚えは無い。 適当にあしらったつもりだったが、その手に力が篭る。 杖を引き抜き、追い散らそうかと思ったが、そうする前に相手が声を出したが…フーケの頭の中に絶望ォォォォだねッ!という妙な髪形の男の声が響いた。 「よォーーー会いたかったぜぇ~?フーケェ」 その声がフーケには地獄の門番の声に聞こえた程だ。 恐る恐る後ろを振り向きフードを被った相手の顔を見て、相手がそれを外した瞬間、息が止まる。 胃が痙攣し反吐を吐く一歩手前だ。 だが、それでも反吐の代わりに声を吐き出そうとするが巧くいかない。 「で、で、で、で、ででででで…」 「あ?何だよ」 「出たァーーーー!!」 「ルセーな。人を化物みたいに扱うんじゃねぇ」 やっとの思いで叫びと共に息を吐き出したが、想定外にも程がある。 「な…なんで、こんな所に…あの娘と一緒にアルビオンに……あぐ!」 「こんな所で何叫んでんだてめーは。そういう事は向こうで話しようや……な?」 かなりうろたえていたフーケが大人しくなったが腹が少し凹んでいる。 グレイトフル・デッドで殴ったためだ。 本気で吐きそうなフーケを半分引き摺りながら人気の無い場所へ連れて行く。 さながら事務所の奥に連れて行かれる債権者のようだ。 人は居たが、全員関わる気は無いようで誰も寄ってこない。 都会が寒いのはどこでも同じである。 「ゲホ…!…いきなり何すんだい!」 「あんな場所で騒いだら困るのはオメーだろ?感謝しろよ」 確かにそうだ。未だフーケの首に掛けられた懸賞金は解かれてはいない。 もっとも、殴る必要も無いのだが。 「…そもそも、なんであんたがこんな所に居るのさ」 「使い魔ってのクビになったからな。仕事探してんだよ」 言いながらスデにルーンの消失している左手を見せたが、半信半疑っぽい。 「馬鹿言うんじゃないよ。契約ってのは死なないと解けないんだ。見たところ、死体ってわけでもないし」 「死人か。ま…似たようなもんだろ」 実際の所イタリアでは死亡扱いなので一回死んでいると言ってもいい。 「で、仕事って何さ」 「クロムウェルって奴を殺りに行くんだが…ワルドと組んでたって事は『レコン・キスタ』だよな。アルビオンの道案内しろ」 「…は?」 「いや、アルビオンに行く方法は分からねーわ。行けたとしても地理が分かんねーわで、お前に会えて助かったぜ」 何言ってんの?この人。という目を向けてきているが、無理も無い。 「聞こえなかったか?オメーの組織の頭を暗殺するから案内しろ。って事だ」 「…何言ってるのか分かってるのかい?つまり、あたしは敵って事だよ」 最初こそテンパっていたものの、そこは一級の盗賊。 暗殺という言葉を聞いて顔付きが変わった。 「その態度、聞く耳持たない。…って事か?」 「他を当たりなよ。せいぜい無駄な努力でもするんだね」 まぁ無理も無い。 敵にいきなり協力しろと言ってするやつは居ない。 「仕方ねーな……ああ、言い忘れたが肌の手入れはしといた方がいいぞ。『歳』取ると…シワが出るって言うからよ……」 「わたしはまだ23だよ!シワなんて……ハッ!」 そこまで言うと思い出した。 こいつの…!この男の魔法を越えた能力をッ! (ま…まさか…) 急いで杖を取り出し、錬金で鉄板を作り覗き込んだが本気でヤバイと思った! 「と…歳を取っているッ!」 「じゃあな。『そのまま』元気でやれよ」 半ば唖然とするフーケを後にとっととその場を後にする。 無論、直で適度に老化させただけとはいえ、永久持続するわけではない。 スタンド能力を詳しく知らないからこそ通用する…ハッタリである。 「ま、待ちなよ!話は最後まで…」 やっとこさ我に返ったが、ぶっちゃけもう居ない。 スデにフーケの遥か先を後ろ手を振りながら歩いている。 一分後 「どうした?そんぐらい走っただけで息切れするたぁスタミナ不足だな」 「ハァー…ハァー…待ちな…って言ってるだろ…!」 「おいおい、聞く耳持たないんじゃあねぇのか?」 程よく50手前ぐらいまで老化していたフーケが猛ダッシュでプロシュートを追いかけていたが やはり老化の影響でもうバテて息が上がっている。 広域老化進行中なら死んでもいいぐらいなのだが、そう考えるとまだ運が良い方だろう。 「き、気が変わっただけだよ。案内するよ。アルビオンをね」 職業柄、多少の脅しや尋問などには意にも介さないだろうが この場合は別だ。 キュルケにおばさんと言われてはいるが、まだ23。 言わば『絶好調ッ!誰も僕を止める事はできないッ』的な年齢である。 だからこそ、この老化の能力はキツイ。女性であるならなおさらだ。 『レコン・キスタ』にもそれ程拘っていないのもあるが、あったとしても多分結果は同じだ。 「いやいや、オレとしても無理言ったと思うしな。オメーにも都合があるだろうし、残念だが他を当たるよ」 多少演技掛かっているが、追い込む為の一手だ。 普段のフーケなら通用しないだろうが、ディ・モールトパニくっているので、こうなればトコトン追い込んで利用しやすくすることにした。 まさに外道…いや、まさにギャング! 「……あ……ない……」 「何ィ?聞こえねーなァーーー」 なおも先へ進もうとしたが フーケの呟くような言葉に対し、某六聖拳伝承者のように返す。 女だろうが、敵であるならば手加減無用というだけに一切の容赦は無い。 スト様もビックリだ。 「わ…わたしに、アルビオンを案内させてくださいッ!!」 「そこまで言われちゃあな。しっかり頼むぜ」 逆に向こうから頼んできたところで、あっさりと承諾の意を示す。 テープがあれば録音しておくとこだが、無いので仕方ない。 手のひら返したように態度を変えたプロシュートにハメられた事に今更気付いたフーケだがもう遅い。 強要され渋々承諾したというのなら、途中で反抗する機を窺う気にもなるが ハメられたとはいえ自分から頼み込む形になってしまったのでは、精神的な残り方が違う。 黄金や漆黒と呼ばれるような精神を持っていれば別だろうが、生憎とフーケはそこまでは持っていない。 「こ、この…悪魔が憑いてるんじゃなくて悪魔そのものだよ……」 地面に手と膝をつき、力なく顔を地面に向けているフーケがやっとの思いで言葉を吐き出したが 敵組織を広域老化でまとめて潰した時なぞ、悪魔はもちろん死神だの何だの言われているので今更気にしたりはしない。 当の『悪魔』は淡々と返すだけだ。 「ああ、よく言われる」 猫に弄ばれる鼠と同じだ。 相手の気分しだいでどうにでもなる。 窮鼠猫を噛むと言うように、隙を見て魔法で攻撃ぐらいはできるだろうが 所詮、鼠の攻撃。少しひるむぐらいですぐに追いつかれる。 そうすれば老化という、ある意味死ぬより最悪な能力が待っている。 まして、射程は200メートル程もある。到底逃げ切れるものではない。 完全に何かを諦めたような目でこっちを見てきているが、全く悪いとは思っていない。 一応、殺る、殺られるを体験した仲なので、殺らないだけマシというヤツだ。 「で…案内するのはいいとして、アルビオンへはどうやって行くつもりだい?」 「その辺りも期待してんだがな。どうやってここまで来たんだよ」 「こっちはワルド連れての隠密。行きだけの一方通行だよ」 「あのヤローか…オメー確か盗賊だったよな。裏のルートとかで無いのか?」 「無理だね。あったとしても、これからドンパチやろうって国に好き好んで行くやつが居るもんか」 「あ?オメーの帰りはどうすんだ。大体、何しにきたんだよ」 戦時とはいえ、フーケが出たとなれば追われる事は確実である。 そんな国に目的も無しにやってくるとは思えない。 「ヤボ用だよ。あんたが気にする事じゃないさ」 「まぁいいがな…仕方ねぇ、ジジイに頼むとするか。あんだけ歳食ってりゃ何か知ってんだろ。行くぜフーケ」 あのジジイになら知られても、何とかなるだろうという事からだったが言いながら後ろを振り向くと、見た瞬間速攻でフーケの肩を掴んだ。 「おい、テメー…言った傍から何逃げようとしてんだ」 「い、いや…あの学院に行くのはちょっとね」 あの場所で一犯罪やらかしたのだから、行きたくないのは当然だが少しばかり様子が妙だ。 「…何か妙だな。何かあんな?おい」 「あー…いや」 ハッキリ言わないので、顔を近付け尋問する。 正直距離が近いが、ペッシ的対応である。 「……メンヌヴィルって聞いたことないかい?」 「知らねーな。誰だよ」 「白炎のメンヌヴィル。伝説とまで言われてる傭兵で戦場とは言え楽しみながら人を焼き殺すような外道さ。そうさね、あんたがあの森の中でわたしの腕を掴んだ時のような目をしてたよ」 そうは言ったがフーケ自身はメンヴィルとプロシュートが似ているっちゃあ似ているが、全く同じだとは思っていない。 メンヌヴィルというのは、人を笑いながら殺せるようなヤツと見たが、プロシュートはそうではないと見ている。 必要があれば老若男女区別なく殺るという点では違い無いだろうが、少なくとも楽しんだりはしていない。 もっとも、『ブッ殺す』と心の中で思った時点で足元に死体が転がっているような男とどっちがマシと言われれば迷うとこだが。 「あいつは、こっちに来る前に、オーク鬼を20匹焼いたんだ。 楽しそうに話してくれたよ、人が好きだから焼く。その焼ける匂いが興奮させるんだと。わたしとした事が背筋が寒くなったよ…あれは」 「で?そのメンヌヴィルがどうした」 「……あー、もう仕方ない、言ってやるよ。 …今、学院を襲ってるのがメンヌヴィルの部隊なんだ。人質にするつもりさ」 そう聞いたが、中々良い手だと思う。 戦争なんだから、何でもアリだ。卑怯もクソも無い。やられた方が悪いという価値観だけに、全く敵対心というものが沸いてこない。 「そうか。ならすぐに人が死ぬ心配はねーな。行くぜ、おい」 「…やめときなよ。助けに行くつもりなんだろうけど」 「誰が助けに行くなんざつったよ。アルビオンに行く為にジジイの手を借りたいが敵が居るから排除する。シンプルで良いじゃあねーか」 「行きたいなら一人で行っとくれ。わたしは死ぬ気は無…」 踵を返そうとしたフーケだが、何かにガッシリと掴まれて動けないでいる。 プロシュートの両手は空いているし、周りに人は居ない。 「そうか、なら選ばせてやるよ。オレと学院に乗り込むか…ここで老化するかだ。オレはどっちでもいいぜ?」 「…ッ!」 選択とあるが、行くも地獄、退くも地獄というやつだ。 ベネ(良し)という選択肢は一切存在しない。 「こ…このドSめ…」 ドSと言ったが、ギャングであるからには自然とそうなるものである。 ブチャラティでさえ、必要があればジッパーを使い尋問をしている。 フーケがカタギであれば別にこうもしないが、メイジであり、敵であるからには容赦はしない。 第一、存在を知られたからには、余計な事を…特にワルドあたりに知られたらやりにくくなる。 一段落付くまで手放す気は全く無い。 「分かったよ!行けばいいんだろ!行けば!」 半ばヤケクソだが、まだ学院に乗り込むほうが先があると判断したようだ。 「心配すんな。白炎って事は火だろ?なら一瞬でカタが付く。オメーの出番はねーよ」 無論、巻き込むだろうが仕方の無い犠牲というやつだ。 巻き込むとは言っても馬鹿みたいに火を放っていなければ、解除すれば十分助かる。 敵が死ななくても、倒れている間に杖をヘシ折るか殺ってしまえば何も問題無い。 (火だと都合がいい…どういう事だ?あの宿の時、偏在はともかく一緒に居たタバサって娘は老化してなかったね。確か二つ名が…) 「雪風…か。そうか、あんたの妙な力は温度で変わるんだ。周りの温度が低ければ効かない。そうだろ?」 「50点ってとこだな。だが、流石だな。名うての盗賊ってだけあった中々の洞察力だよ」 「ま、まだ何かあるのかい…」 「何、そんな大した違いじゃねーよ。周りの温度じゃあなくて、体温ってとこだがな」 「どう違うんだよ」 「体温だからな、氷かなんかで冷やせばそれでいい。ま…動き回っちまえば関係なくなるが」 「…そんな弱点話していいのかい?情報持ってクロムウェルのとこに駆け込むかもしれないよ」 「困るのはオレだしな。オメーを巻き込んで足手まといになられる方が厄介だ。それにだ…」 「へぇ、言ってくれるね」 手の内をある程度晒した事に多少安堵し、メンヌヴィルと組むよりは良いかと思ってきたフーケだったが…甘かった。 フーケの肩をガッシリとグレイトフル・デッドで掴み、スゴ味と冷静さと殺意が混じった声で言い放つ。 「裏切ろうとしたら直を叩き込めばいいだけだからよォ。直触りは…関係無いんだぜ…?」 「あ…あ…」 なおも続けるが、フーケは聞いちゃいない。 「オレに直を使わせないようにしてくれる事を期待してんぜ。えぇ?おい」 そう言ってグレイトフル・デッドの手の力を強めた瞬間、人気の無い裏路地に若い女の叫びが響た。 プロシュート兄貴&フーケ ― チーム『はぐれ犯罪者コンビ』ほぼ一方的に結成 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1865.html
わたしたちは、痩せた空賊の男に部屋から連れ出された。 甲板の上の部屋に通されると、ガラの悪い空賊たちがニヤニヤと笑っていた。 立派な部屋に豪華なテーブル、一番の上座に派手な男が座っていた。 どうやら、こいつが頭のようね、杖をいじってる所をみるとメイジなのか。 水晶の付いた良い杖ね……。 わたしたちを連れてきた男が、わたしをつついた。 「おい、お前たち、頭の前だ挨拶しろ」 わたしは、頭を睨んでやったが、頭はにやっと笑った。 「気の強い女は好きだぜ。ガキでもな。さてと、名乗りな。」 「大使としての扱いを要求するわ」 誰が、こんな奴等に恐がってやるもんですか。 「馬鹿かお前?空賊を相手に何を言っているのやら」 頭は静かに、わたしの言葉を跳ね除けた。 「……王党派と言ったな?」 頭がわたしの瞳を覗きこんでくる。 「そうよ」 「目的はなんだ?あいつら、明日にでも殺されちまうのによ」 頭の台詞に焦りが募る。 そうなる前に、ウェールズ様に会わないといけないのに。 「あなたたちには関係ないわ」 「貴族派につく気はないか?あいつら、メイジを欲しがってる。 たんまり礼金も弾んでくれるだろうよ」 こいつ等、そんなにお金が欲しいの? 「わたしは、大使だって言ってんでしょ」 「『大使』……それだ、そこが良いんだよ」 頭は杖を、わたしに向け囁いた。 「何を言ってるの?」 「大使なら労せずに、ウェールズ皇太子に会えるだろう…… そこで、斬るなり焼くなり好きにできる。『大使』なら簡単に出来るだろう?」 「この外道!死んでもイヤよ」 わたしの言葉をまったく気にしない頭。 「もう一度言う。貴族派につく気はないかね?」 まだ言うか……わたしの肩にプロシュートの手が置かれた。 「つかねえって言ってんだろ」 「貴様はなんだ?」 頭がじろりとプロシュートをにらんだ、人を射すくめるのに、なれた眼ね。 プロシュートは真っ向から睨み返す、こちらは視線だけで人が殺せそうな眼だ。 「使い魔さ」 「使い魔?」 「そうだ」 頭は笑った。大声で笑った。 「トリステインの貴族は、気ばかり強くって、どうしようもないな。 まあ、どこぞの国の恥知らずどもより、何百倍もマシだがね」 頭は立ち上がり黒髪を剥ぎ取り、たくわえたヒゲを毟り取った。 変装してたのね、そこに立っているのは凛々しい金髪の若者だった。 「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」 まさか空賊の頭がウェールズ様だったなんて。 わたしは手紙を返して貰うために、城に向かう。 途中、貴族派に邪魔されること無く無事に手紙を手に取ることができた。 一番困難だと思っていたウェールズ様との接触…… 思いもよらぬ形で出会い、簡単に手紙も返して貰った。 後は手紙を姫さまに届けるだけね……なんだか拍子抜だわ。 だから、この時。まさかあんな事に成るなんて夢にも思わなかった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1824.html
職員や生徒の間で勅使が亡くなった、というニュースが流れていたが、その日は大多数の生徒にとっていつもの平和な朝だった。 もちろん、1人の少女と使い魔の間でも。 「……で、あの『ぷろてくたー』ってのはなんなの?」 「俺の世界では、身に纏う防具だったが…名づけた相手にとっては比喩だろう。俺の体の管から水蒸気を出し、それをウズ状にして 俺の周りに纏わせる。そうすれば光が屈折して俺に当たらない、故に姿が見えにくくなる。まあ、元々の目的は透明化ではないがな」 「あんたの風って便利ねー。異世界の亜人ってこんなんばかりだとしたら…恐ろしすぎるわね」 ワムウはそうでもない、と否定をする。 「我々はもう4人、いや2人しか残っていない。あちらでは亜人などと言う言い方はしていなかったがためになにを指しているか 詳しくはわからんが俺の世界で高等生命に足る知性があるのは人間と吸血鬼、屍食鬼くらいだった。俺の知っている限りではな」 「我々、ってことはあんたみたく風を操るのがあと1人いたの?」 「元々は4人居たのだが、2人は戦死した」 ルイズは黙る。 ワムウは語りだす。 「我々は一人一人能力が違う。一人はサンタナ、奴には大した能力も知性もなかった。もう一人はエシディシ様だ。あのお方は我々の中で 最も勤勉で、人間どもの戦略を必死に学んでいたな。二〇〇〇年ぶりの目覚めだというのに『戦争論』だの『海軍戦略』読んでいてなにが 楽しいか私には理解できなかったがな。あとは少々、気難しいというかなんというか…そして、エシディシ様は熱を操る流法『怪焔王』を 使っていた。俺の能力よりも使いやすく、どんな状況でもあの方ははほぼ落ち着いていた…ほぼだがな」 「次はカーズ様だ。我々の世界で吸血鬼を生み出す『石仮面』を作り上げるほどの知能の持ち主であった。正直な話、俺が求める『戦士像』 とは違っていたが、それでも偉大な方であった、と俺は思う。カーズ様は……もうあうこともないだろうしお前に話しても構わないだろうな、 カーズ様の流法は『光』。輝彩滑刀の流法といって骨を硬質化してエッジの部分を絶え間なく動かすことによって『チェーンソー』のように 切れ味を増し、どんな堅い物質であろうとも切り裂く。俺の肉体でも一瞬で切り裂かれるかもしれんな」 ルイズは、この目の前の化け物のような働きをした亜人の肉体を切り裂く武器があるのかと驚き息を呑んだ。『チェーンソー』とはなにかはよくわからなかったが。 「そして…仲間ではないが…というか我々の敵である人間、俺を破った人間の話だ」 ワムウを一人で倒せる人間の話、と聞いてルイズは今まで以上に緊張する。 「名はジョセフ…波紋戦士…正真正銘人間の青年だ。」 「ねえワムウ、あんたの話にたまにでてきたけど…波紋ってなに?」 ワムウは少し考えたのち答える。 「波紋とは…俺には原理はよくわからんが…吸血鬼、屍食鬼、そして我々の天敵だ。我々一族は普通の生命が例えば蹴りをはなって 来たとしよう。我々はその蹴りを、足ごと吸収して食える。したがって武器なしで打撃を与えることは普通はできないし、 武器があったとしても我々に身体能力で敵う生命など生まれてこのかたみたことがない。これは自慢でも過信でもない。 我々の誇りと自負だ。しかし、『波紋』は我々の弱点である。人間がこれを纏えば、我々にとってはどんな鎧よりも恐ろしい鎧となる。 波紋を纏った蹴りを吸収しようとすれば内部から組織が破壊され、波紋が通っている油を塗った鉄球を打ち込まれれば 屈強な我々一族の肉体をも貫き、立ち上がることすらできなくなる」 ワムウは続ける。 「そして俺を破った戦士、ジョセフはその波紋の使い手の一人であった。波紋の強さ自体は今まで戦ってきた戦士の中では中の上 程度であった、が、自分の弱ささえも武器にし、自分の本質を最大限に生かしていた。これは前にもいったな。『したたかさ』と 『高潔さ』を両立できる人間…戦士を俺は尊敬している。俺にとってそういった者は友であり尊敬するもの。俺は俺を倒した ジョセフや、俺に向かってきた戦士たちを尊敬している」 「あんたのいう『戦士』って、ただ強いだけってことじゃないの?」 「強者こそは真理であるし、敬意をも払う。しかし、俺が目指す、尊敬している友人たちは強いだけではなかった」 「話が長くなったな、もうそろそろ食事の時間だろう」 ワムウは話を終え、外へと出て行った。 * * * 朝の食堂。 「お、おはようモンモンラシー!今日も素敵だね!」 キザなセリフを吐きながらも、なぜか声の裏返っているギーシュ。 「そんなに慌てて、またあんたなにかやましいことでもあるのね?」 「ぜ、ぜぜぜぜぜぜんぜんないよ!ハハハハ!」 「ギーシュ様…最低!」 入り口に立っている女の子が泣きながら外に走り出した。 「あの子は後輩のケティね……あんた、後輩にも手を出して…」 「ははは、ちょっと待ってくれ、平和的に話し合いで…」 「どうして欲しいのあんたは?色々と嫌がらせしてみる?あんたのファン減らすためには…そうね、色々とバラしてみる?」 「や、やめてください…」 「ってことはやっぱりまだやましいことがあるのね?オラオラオラァー裁くのは私の水魔法だァーーッ!」 今日も食堂は平和であった。 ルイズ達が入ってくるとやや雰囲気が強張ったが、決闘騒ぎはもう過去の物となり、影にさえ気にしていれば大丈夫とされたため 大多数には特に目立った変化もなかった。キュルケはまだ怯えている少数派の一員だったが。 「あら、おはようシエスタ」 「おはようございます、ミス・ヴァリエール」 「前は言いそびれちゃったけれども、ルイズでいいわよ。そんな畏まらないで」 「そ、そんな恐れ多いです……そういえば前に話しましたモット伯の話を聞きました?」 ルイズはビクリとふるえる。ワムウは平然と食事を続ける。 (落ち着くのよルイズ……落ち着いて自然数を数えるんだ…自然数はなにかがある数字…私と胸に力を与えてくれる…) 「い、いえ聞いてないわ」 「それが、行方不明になったらしくて、私が勤める話もご破算になって…それでここの仕事に復帰できたんです」 「そ、そうよかったじゃない」 「ミス・ヴァリエール、なんだか目が虚ろですけれど風邪でもおひきになられましたか?」 「べ、別になんでもないわ、大丈夫よ。気にしないで」 「そうですか、では仕事に戻らせてもらいます」 シエスタが席から離れていき、ルイズはため息をついた。 (なんとか、うまくいったようね…死体も残ってないから「行方不明」になってるんでしょうけど…冷静に考えるとすごい恐ろしいわね) どうにか一息つき、シエスタの働きぶりを眺める。 (しかしよく働くわねー。メイドだけじゃなくウエイターや会計までやってるわ) 今日は虚無の曜日の前の平日であり、出かけている人も少なく、食堂は非常に混んでいた。 そして、その日はウエイターが数人休んでおり、ただでさえ多いシエスタの仕事は増していた。 そのため、いつものシエスタならば起こりえないミスを犯してしまったのだ。 「あっ!」 シエスタが持っていた飲み物が手から落ち、横にいた女生徒の頭にかかる。 「す、すみません!ミス・ヴィリエ!」 シエスタは膝を土につけ、必死で謝る。が、 「おのれ…よくも私の髪に飲み物をッ!」 ヴィリエと呼ばれた女性はその程度では許す気にはなれないらしく、杖を懐から出し、振り上げる。 (ああ、私を魔法で殴る気だッ!) しかし、杖は振られなかった。 いつのまにか後ろに立っていたルイズが杖を抑えたのだ。 「やめなさいよ、大人気ないわ。仮にも貴族であるなら程度をわきまえなさい」 「あら、『ゼロのルイズ』が貴族観について私に意見するの?」 相手の言にルイズは激昂しそうになるが、堪える。 「ええ、そうよミス・ヴィリエ。謝っているのにそれを認めずに杖を出すのがあなたの貴族観だっていうの?」 「ええそうよ、平民風情が多少謝ったところで許してたら私たち貴族の誇りは守れないの。私、残酷ですもの」 ルイズの眉が震える。 「じゃあ、どうすれば許すってのよ」 「どんなに魔法で痛めつけても、私の心は晴れないし許す気にもならないけど…それくらいの罰は受けてもらわないと、貴族としてね」 ルイズは一歩下がる。 そして、 目の前の少女を思いっきり殴った。 乾いた音が静かな食堂に響く。 倒れた状態でヴィリエは叫ぶ。 「おのれ…よくも私のハダに傷をッ!」 「や、やめてください!ミス・ヴァリエール!私が悪いのです!」 シエスタがルイズを止めようとする。 しかし、ルイズはそれを無視する。 「あんたがいくら私を侮辱しようとも構わないけれど…私の友人を侮辱するようなら!私はあんたを 許さないわ!貴族による決着のつけたたを私から教えてあげるわ、決闘よ!」 「決闘…ですって?貴族同士の決闘は許されていないわ」 「そんなのは関係ないわ…侮辱には『決闘』も許される!ヴェストリの広場で待ってるわよ」 ルイズは後ろを向き、出口へ向かう。 そして、一度振り向いて 「ただ、あんたがこの決闘の申し込みにも従わず、負けても従わないようなら、私はあんたに対して『貴族らしく』なんて考えないことにするわ」 そう呟いて食堂を出て行った。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2059.html
13話 ガラガラと音を立てて馬車が走る。 乗っているのはルイズ、ギーシュ、モンモランシーの3人。 ちなみにホワイトスネイクも発現状態でこの場にいたが、 浮いているので「乗っている」ことにはならない。 「それにしても……ミス・ロングビル。何で貴方が御者なんかやってるんです? 学院に仕えてる平民の誰かにやらせればよかったじゃないですか」 モンモランシーが手綱を握るロングビルに声をかける。 「いえ……いいのです。私は貴族の名をなくした者ですから」 「え? でも、ミス・ロングビルはオールド・オスマンの秘書なんじゃ……」 「あの方は貴族と平民の区別に拘らない方なのです」 「トイウ事ハオ前ノ他ニモ下仕エ以外デ学院ニ勤務スル者ガイルノカ?」 突然ホワイトスネイクが会話に割って入った。 「いえ、そういうわけでは……」 「デハオ前ダケガオスマンニ取リ立テラレタ、トイウ事カ?」 「……私が知る限りでは」 「ト、ナルト平民トハソンナニ無能揃イナノカ? ソンナ筈ハアルマイ。 有能デアル事ニ加エテオ前ハ恐ラクオスマンニ何カヲ持チカケタナ?」 「ちょっと、ホワイトスネイク! あんた失礼よ!」 ホワイトスネイクの追求にルイズが声を上げる。 この場で「ロングビル=フーケ」あるいは「ロングビルがフーケの配下」の可能性を疑うのが ホワイトスネイクだけである以上、仕方の無いことではある。 「その通りだ使い魔君。ミス・ロングビルはレディーなんだからそういう態度はだね」 ギーシュもルイズに賛同して声を上げたが、 「「あんた(オ前)は黙ってなさい(黙ッテロ)」」 ルイズとホワイトスネイクのダブルパンチで黙らされた。 「ね、ねえモンモランシー。あの態度は、ちょっと無いんじゃないかな?」 「あんた、ミス・ロングビルに手を出したらただじゃおかないから」 「ひ、ひどい……」 そしてモンモランシーに出した助け舟も艦砲射撃一発で沈められ、目に涙を浮かべながらギーシュは黙り込んだ。 「持ちかけたとは……一体何を? 根も葉もない疑いをかけられては、私も黙っていかねますが」 「ソウダナ、例エバ……」 「色仕掛ケ、トカ」 ぶすっ 「ッ!! ツ、杖デ目ヲッ! 一体ドーイウ教育ヲ受ケタラソーイウコトガ平気デ出来ルンダッ!?」 「それはこっちのセリフよこのバカ蛇ッ! どーいう生活環境にいたらあんな失礼極まりないことがいえるのよ!! ああもう、本当にすみません! うちのバカがこんなので……」 「い、いえ……」 ルイズの剣幕に思わずたじろぐロングビル。 だが彼女がたじろいだ理由はもう一つあったのだが……それは今ここでは言うまい。 「まったく……それにしても、何であんたが志願したのよ、ルイズ。 大体あんた、魔法使えないじゃない」 「魔法が使える使えないは関係ないわ。 土くれのフーケを放っておくのは、貴族として恥ずべきことよ」 「……あんた、プライドだけは一流よね。 そのプライドのおかげで、わたしまでついて行くことになっちゃったし」 「あんたがくっついてったのはギーシュでしょ」 「ち、違うわよ! わたしはただ、ギーシュが心配だから……」 「そーいうのが『くっついてく』って言うんじゃない」 きゃあきゃあと言い合いをするルイズとモンモランシー。 と、そこへ。 「モンモランシー! やっぱり君は僕のことが」 「「あんたは黙ってなさい」」 「しゅん……」 またも会話にしゃしゃり出たギーシュだったが、 ルイズとモンモランシーによる言葉のクロスボンバーであえなくダウンした。 そんなギーシュを見てホワイトスネイクが一言、 「修行ガ足ランナ」 「え? って言うか君、ちょっと前に召喚されたばっかりだろ!?」 そんなことをしているうちに、馬車が止まった。 まだ昼間だというのに、周囲は生い茂った木々のせいで光が届かず、薄暗い。 「ここから先は徒歩で行きましょう。 そろそろフーケの隠れ家が近いので、馬車では音で気づかれます」 皆がロングビルの提案に従い(ホワイトスネイクも何も言わなかった)、歩いて森の中を進む。 歩いているうちに、やがて開けた場所に出た。 この場所だけは木も少なく、光が注いでいるかのように明るかった。 そして……古びた小屋が、一つあった。 「あれがフーケの隠れ家です……身を隠してください。 フーケがまだ、中にいるかも……」 手ごろな位置にあった木に身を隠しながらロングビルが言う。 ルイズたちもそれに従い、慌てて近くの木に隠れた。 「……ホワイトスネイク。あの中、見てこれる?」 「距離ニシテ約30メイル。ルイズガ小屋カラ視認デキル位置マデ移動スル必要ガアルナ」 「つまりわたしも危険、ってことね……」 「ソノ通リダ。私ハアマリ推奨シナイ。ソレヨリ……」 そう言ってホワイトスネイクはあたりを見回すと、突然腕からDISCを「二枚」取り出した。 初めて見るロングビルが唖然としている中(ギーシュとモンモランシーは授業で一度見ている)、 ホワイトスネイクはそのうちの一枚をおもむろに上空へと投げた。 「……あんた、今何したの?」 「見テイレバ分カル」 ホワイトスネイクがルイズにつれない返事を返した直後のこと。 突然、一羽の鳥が上空からすいーっと小屋に近づいて窓の縁に着地すると中を覗き、 それからすぐに飛び立って真っ直ぐにホワイトスネイクの方へ飛び、その掌の上にちょんと乗った。 一同が呆気に取られてみている間、ホワイトスネイクは鳥の頭部に指を突き刺すと、 すぐにそこから一枚のDISCを取り出した。 そしてそのDISCを今度は自分の額に差しこみ、しばらくしてから、 「アノ小屋ニハ誰モイナイヨウダ」 そう言い切った。 ルイズがそれに対して何か言おうとしたが、 「ルイズモコレヲ見ルトイイ」 そう言ったホワイトスネイクから差し出されたDISCを 得体の知れないものに触るようにおずおずと受け取ると、 さっきホワイトスネイクがやったように、そろ~っと自分の額に差し込んだ。 その瞬間、ただ日の光を反射しているだけだったDISCに、映像が映り始める。 最初は空中の映像、それが一気に急降下して木で出来た何かに、いや、どこかの小屋に着地した。 それに連続して小屋の中の映像が始まる。 小屋の中には、誰もいなかった。 ルイズがそう感じた瞬間、映像の視点は180度反転して再び空中を飛んだ。 直後、映像にはルイズと、ギーシュ、モンモランシー、ロングビルが小さく映し出され、 それがどんどん大きくなったと思った瞬間、 視点が「何も無いように見える」場所に着地し、そこで映像は終わった。 「ホワイトスネイク、これって……」 「先程ノ鳥ノ記憶ダ」 「記憶って……ちょっと! それってやられた相手は死んじゃうんじゃないの!?」 「問題ナイ。生命活動ニ支障ガ出ナイ程度ノ、部分的ナ記憶ダ」 「……本当でしょうね?」 「本当ダ」 「ちょっとルイズ。それ、わたしにも見せてくれない?」 そういうモンモランシーにルイズがDISCを渡すと、 モンモランシーはルイズがやったように自分の額にDISCを差し込んだ。 そして、しばらくしてからDISCを抜き取ってルイズに返した。 その表情には驚きの色が強く現れていて、そして何も言わなかった。 「……私も拝見します」 その様子を見てロングビルもDISCを受け取ると、同様にDISCを差しこんだ。 この時、ホワイトスネイクは小屋のほうをじっと見つめていて、ロングビルには目もくれていなかった。 そしてDISCを抜き取ったロングビルはやはり同様に驚いた様子で、DISCをルイズに渡した。 だがその表情には恐怖を感じさせる、引きつった「何か」が感じられた。 ホワイトスネイクの目はロングビルの方には向けられていなかった。 だが彼が持つDISC――腕から抜き取りながらも、結局投げなかったもう一枚のDISCには、 ロングビルの表情が反射で映し出されていた。 そしてホワイトスネイクは……それを見ていた。 「僕にも見せて欲しいんだけど」 「「「あんたは(オ前ハ)見なくていいのよ(見ナクテイイ)」」」 ルイズ、ホワイトスネイク、モンモランシーからの集中砲火でギーシュは何も言えずにうずくまった。 「ミス・ヴァリエールの使い魔の……ホワイトスネイクさん、でしたか? 貴方が、今やった事は……」 「最初ニヤッタノハ『命令』。 生物ニ対シテ拒絶不可能ノ行動命令ヲ下ス事ダ。 ソシテ鳥カラ抜キ取ッタノハ『記憶』。 私ハドンナ記憶デモ、ドンナ後ロメタイ記憶デアッタトシテモ…… ソレガ『ロングビルノ記憶』ダッタトシテモ……必ズ形ニシテ抜キ取レル」 ホワイトスネイクの言葉に、思わずロングビルは一歩下がった。 「い、一体……何がいいたいのですか?」 ごくり、と生唾を飲み込んでロングビルが言う。 「私ガ今一番見タイ記憶ハ……ロングビル、オ前ノ記憶ダ。 アノ小屋ノ中ニハ誰モイナイ。 ナラバフーケハドコニイル? 獲物ヲ待ツ蛇ノヨーニ我々ヲドコカカラ見テイルノカ……アルイハ」 「あ、あの! さっきのホワイトスネイクさんが取った鳥の記憶の風景に、箱のような物が映っていました! もしかしたら、それが破壊の杖かも!」 唐突に話題を変えようと試みるロングビル。 しかし。 「ソウ思ウナラ自分デ取ッテ来ルベキダ。 小屋ソノモノニ何カブービートラップガ仕掛ケラレテイタラ…… ソレガルイズヲ傷ツケタリシタラ大変ダカラナ」 まるで人事のように言うホワイトスネイク。 言うまでもなく、小屋の中に「箱のようなもの」が映っていた事はホワイトスネイクも確認している。 だが…… 「ソシテ逆ニ聞キタイ。 ソモソモ、何故ソノ「箱のような物」ヲ破壊ノ杖ダト判断スル?」 「う………」 「名ノアル盗賊ガ折角手ニ入レタブツヲ置キ去リニスル事コソ考エ難イノニナ……何故ソンナ事ヲ言ウ?」 「それは……その……」 しどろもどろになるロングビル。 その様子を見て、さすがにルイズやモンモランシーもロングビルに一抹の疑いを持ち始めた。 ギーシュには、ホワイトスネイクが一方的にロングビルを言葉責めにして、 ロングビルがそれに困っているようにしか見えなかったが。 「ソレニ、ダ。ロングビル。 オ前ノ言動ニハ一ツノ意思ヲ感ジル。 ココマデ誘導シタノニモ……ソレ以前ニ、最初ニフーケノ居場所ガ分カッタト言ッタ時カラ」 「わ、分かりました! 私、今から小屋に向かいますので、後方支援をお願いします!」 ホワイトスネイクの言葉を途中で遮り、ロングビルは駆け足で小屋へと向かった。 一方、ホワイトスネイクは自分の言葉を遮られたことには意も介さない様子でその後姿を眺めながら、 「ギーシュ、モンモランシー。 オ前達ニ何ガ出来ルカヲ把握シテオキタイ。 ソレト使イ魔ノ情報モ、ダ」 「いいけど……何で今なの?」 「ロングビルガ小屋ニ入ッタ後……恐ラク直グニフーケノ攻撃ガ始マル。 フーケハ罠ヲ張ッテイルハズダカラナ」 「……分かったわ」 モンモランシーが緊張した面持ちで答える。 「私は水のライン。 20メイル先ぐらいまでなら水で攻撃できるわ」 「威力ハ?」 「まともに当たれば骨ぐらいは折れる威力よ」 「分カッタ。デハ使イ魔ハ?」 「カエルのロビンよ」 カエル、と聞いた瞬間、ホワイトスネイクの体が微妙に震えた。 「ロビン自体にはあんたみたいに戦闘力はないわ。 せいぜい感覚の共有で私をサポートするぐらい……って、どうしたのよ?」 「…………何デモナイ」 猛毒のカエルが雨あられの如く頭上に降り注いだ記憶が一瞬フラッシュバックし、 すごくイヤな気分になったホワイトスネイクであった。 「……デハ次ハギーシュダ。 オ前ノ魔法ハ既ニ見テイルカライイ。 使イ魔ノ情報ヲモラオウカ」 使い魔、と聞いて精神的にやつれていたギーシュが輝かんばかりの笑顔になった。 「僕の使い魔の事を聞いてくれたのかい!? いやあ、嬉しいなあ! 僕の愛しのヴェルダンデの事が気になるなんて、君もいい趣味してるじゃないか!」 「戦力ニナルカドウカガ知リタイダケダ。サッサト言エ」 「まあまあ、そんなに急かさないでくれたまえ。 僕のヴェルダンデはジャイアントモール。 地中を水の中の魚みたいにすいすい動けるんだ!」 「……ツマリモグラカ?」 「ちょっと待ちたまえ。僕のヴェルダンデはただのモグラなんかじゃあないんだ。 モグラよりもずっと強くて、ずっと賢くて、ずっと愛おしい、それが僕のヴェルダンデさ!」 「トリアエズモグラノ類デアル事ハ分カッタカラモウイイ」 そう言ってホワイトスネイクが会話を切った瞬間だった。 みしり、と大地そのものが軋んだ。 瞬間、ホワイトスネイクは小屋に目を向ける。 目を向けた先にいたのは、全長30メイルはあろうかという巨大ゴーレム――フーケのゴーレムだった。 そのゴーレムは拳を大きく振り挙げると、 子供が砂の城を崩すより容易く、小屋を根こそぎ吹き飛ばした。 人型の何かが、小屋の残骸と共に森の中に吹き飛ばされるのがホワイトスネイクにも見えた。 そしてそれは、ルイズにも、モンモランシーにも、ギーシュにも見えた。 「い、今のって!」 モンモランシーが思わず声を上げ、ギーシュは口をぱくぱくさせる。 そして一方、ルイズは呆然として、声を上げる事すらできなかった。 自分もロングビルを疑っていた。 ホワイトスネイクがロングビルを責めるのにつられて、わたしも! そのために、今、ミス・ロングビルが―― 「落チ着ケ、ルイズ」 自責の念に駆られるルイズの前にホワイトスネイクが立つ。 ただしルイズにはその背が向けられており、ホワイトスネイクは真っ直ぐにゴーレムを見据えていた。 「今見エタノハ何ダ? 見エタノハ『人型の何か』ダ。 アノ程度ナラギーシュダッテ作レル」 「………」 沸騰しそうになる頭をどうにか平静な状況に持っていき、やっとのことでルイズが口を開く。 「……その、根拠は?」 ホワイトスネイクは暫し考えた後、 「私ヲ信ジロ」 確かにそういった。 自分を、信じろですって? ルイズは、自分の耳を疑いたくなった。 ここに来る前にあんだけのことをしといて、それでどの口がそんなことを言えるの? こいつ、本当にそれでわたしが納得すると思ってるの? そんな思いが脳裏を次々と掠める。 だが、自分の心を過ぎる感情の中に一つ、しかし決して見逃せない感情が、一つあった。 ――自分が信じないで、誰がアイツを信じるの?―― その感情に咄嗟に反駁しようとした。 したが……できない。 自分が信じなければアイツはどうなるの? 誰もがアイツを危険視して、誰にも近寄られないで、それでも一人で、わたしを守ろうとするに決まってる。 そんなのは、絶対にダメだ。 あの夜――アイツと3つの約束をした夜、誰にも言わないで自分の心にだけ誓った事。 ホワイトスネイクを自分の使い魔にしてみせる、という誓い。 今ここでアイツを信じなかったなら、もう二度と自分はアイツを信じられなくなる。 そんなのは、絶対にダメだ。 だから―― 「信じるわ」 自分でも驚くほど、その言葉はすらりと出てきた。 そしてその言葉は、ホワイトスネイクにも僅かながら衝撃を与えた。 それは、背中越しに、ルイズにも確かに伝わった。 「了解、ダ」 ホワイトスネイクはやはり背中越しに、ルイズにそう返した。 しかしその口端には、微かに笑みが浮かんでいた。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1470.html
『ザ・グレイトフル・デッド』 あれ?さっきと一寸ちがうような? まっ・・・いいか 「お待たせ」 お待たせって・・・キュルケ? 「何しにきたのよ!」 「助けにきてあげたんじゃないの。朝方、窓からみてたらあんたたちが 馬に乗って出かけようとしてるもんだから、急いでタバサを起こして後をつけたのよ」 キュルケは風竜の上のタバサを指差した パジャマ姿なのを見ると寝込みの所を叩き起こされたのだろう タバサ・・・あなた、キュルケの使い魔なの? 「ツェルプトー。あのねえ、これはお忍びなのよ?」 「お忍び?だったら、そう言いなさいよ。言ってくれなきゃわからないじゃない。 とにかく感謝しなさいよね。あななたちを襲った連中を捕まえたんだから」 キュルケは岩陰を指差した 「少し待ってろ、ヤツ等に聞きたいことがあるんでな」 プロシュートが岩陰に入るのを見届けると、キュルケをにらみつける 「勘違いしないで。あなたを助けにきたわけじゃないの。ねえ?」 キュルケはしなをつくると、ワルドさまに、にじり寄った 「おひげが素敵よ。あなた、情熱はご存知?」 キュルケ。今度はワルドさまなワケ? 文句を言おうとした時、頭の中に声が聞こえてきた 『ブッ殺す』と心の中でおもったならッ! その時スデに行動は終わっているんだッ! ちょっと!なにやってんの?
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/281.html
第一話『召喚の世界』 第一話『召喚の世界』-2 第二話『甘ったれた世界』 第三話『格差の世界』 第四話『地獄の世界』 第五話『生きててよかったねマリコルヌ、の世界』 第六話「トリステインのばら」 第七話『ギーシュにキッス』 第八話『男の世界』 第九話『幸運の剣』 第十話『タバサVSリンゴォ』 第十一話『ルイズVSキュルケ』 第十二話『夢でもし会えたら』 第十三話『失われた世界』 第十四話『嘘と裏切りの月夜』 第十五話『土くれを撃て』 第十六話『LAST WORLD その①』 第十七話『LAST WORLD その②』
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1845.html
小瓶の中の鮮やかな紫色の香水。机の上に置かれたその香水を見やる。わたしが自分のために作った香水。 見た目の鮮やかさに匂い、全てを自分にあわせて作ったまさに特製の香水だ。 今まで作った香水の中で一番気に入っていて、自分のために作ったものなので当然売りに出したことも無い。 この特製の香水を作るのには、随分と試行錯誤したものだと、香水を見ながら思い出に浸る。苦労したが、その苦労すら楽しかった。 できた時の喜びは今まで作ってきたどの香水より大きかった。思い出しただけでも、自分によく作ったと褒めてあげたくなる。 そして今、自分はこの香水に並び匹敵するような香水を作ろうとしている。どうしても作らなければならないと思っている。 机の上に置いてあった香水をしまうと、代わりに香水を作るための材料を取り出す。そして無残に短くなってしまった髪を軽くなで上げる。 自慢だったこの髪も、今ではまるで男の髪のような短さだ。 「ギーシュ……」 思いの人の名前を呟きながら香水作りに取り掛かる。大丈夫。自分ならきっと作ることができる。わたしはモンモランシー。『香水』のモンモランシーだから。 使い魔は穏やかに過ごしたい外伝『バッカスの歌』 ギーシュと付き合っていた頃、自分はいつもイライラしていたと思う。並んで街を歩けば自分以外の女を見つめる。酒場で給仕の娘を口説く。 デートの約束を忘れ、他所の女の子のために花を摘みに行く。なんとう浮気性だろうか。わたしという彼女がいながら。イライラするのも当然だ。 しかし、わたしは耐えた。イライラしながらもギーシュの浮気性を耐えた。何故なら、本当に浮気をしたことはなかったからだ。 表面上そんな浮気性を演じていて、心の中ではわたしだけを愛しているに違いないと信じていていた。浮気性に心配を持っていたため、そう信じたかった。 ……そして、そんな自分の思いは裏切られた。 春の使い魔召喚の儀式の次の日、昼食の席で騒ぎがあった。別に騒ぎなんてよくあることで気にすることはない。ただ、その日の騒ぎはわたしにも関係があった。 「おお?その香水は、もしやモンモランシーの香水じゃないか?」 自分の名前が出たことに驚き、騒がれている方向を見ると、そこにいたのはギーシュとその友達、そしてゼロのルイズの使い魔だった。 「そうだ!その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」 ギーシュのすぐ横にはたしかにわたし特製の香水が置かれていた。わたしが自分の手でギーシュにプレゼントしたのだ。見間違えるはずが無い。 「そいつが、ギーシュ、お前のポケットから落ちてきたってことは、つまりお前は今、モンモランシーとつきあっている。そうだな?」 その問いをギーシュは、 「違う」 否定した。何故否定するのだろうか?香水が自分とつきあっている決定的な証拠になるじゃない!肯定できない何かがあるの? もしかしてそれは、わたしが懸念していることなんじゃ…… 「いいかい?彼女の名誉のために言っておくが……」 ギーシュが何かを言おうとしたとき、栗色の髪をした一年生が彼の元へ来た。そしてそれを確認した時、わたしは自分の懸念が的中していたことを理解した。 「ギーシュさま……。やはり、ミス・モンモランシーと……」 一年生はボロボロと泣きながらギーシュに喋りかける。 「彼らは誤解しているんだ。ケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは、君だけ……」 ギーシュの言葉に耳を傾けもせず、一年生はギーシュの頬を引っ叩く。 「その香水があなたのポケットから出てきたのが、何よりの証拠ですわ!さようなら!」 一年生が去っていくのを見つめながら、自分も立ち上がる。そしてギーシュの元へ向かう。ギーシュがこちらに気がついたのわたしの方を振り向く。 ギーシュの顔にはきれいな赤い手形がついている。 少し前からギーシュの様子がおかしいとは思っていた。急に予定をキャンセルしたり、何か隠れてコソコソしたりと。もしかしたら浮気かもしれないと懸念していた。 きっとそうじゃないと、ギーシュは浮気なんかしてないって信じていた。信じるしかなった。でも、ギーシュは浮気をしていた。ギーシュはわたしを裏切った! ギーシュの席に辿り着く。体に段々と熱が篭っていくのを感じる。 「モンモランシー。誤解だ。彼女とはただ一緒に、ラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで……」 「やっぱり、あの一年生に、手を出していたのね」 何も感情を込めずに、浮気したという事実を自分に確認させるように呟く。 「お願いだよ。『香水』のモンモランシー。咲き誇る薔薇のような顔を、そのような怒りでゆがませないでくれよ、僕まで悲しくなるじゃないか!」 顔には出していないつもりだったけど、どうやら自分が思っている以上に怒りを感じているらしく、無意識に顔に出ていたようだ。 その事実を確認しながら、机の上の香水を手に取る。そして、中に入っている香水をギーシュの頭の上からかける。 この香水は、付き合い始めた頃にギーシュに渡したものだ。あのときギーシュは自分のことを『愛してる』と言って、キスをした。 でも、全部嘘だった。ギーシュはわたしを愛していなかった。ギーシュは女であれば、誰でもよかったのだ! 香水が小瓶から流れ出るにつれ、さらに怒りが高まっていく。自分の中のギーシュへの思いが全部怒りに変わっていく。小瓶の中身は無くなり、怒りは頂点に達していた。 わたしのこと『愛してる』って言ったのに。『愛してる』って言ったのに!! 「うそつき!」 全ての思いをその一言に込め、わたしはその場を駆け足で立ち去った。そして、そのまま自分の部屋へと走り駆け込むと、鍵にロックをかけた。 その瞬間、それで全ての力を使い果たしてしまったかの如く、その場に座り込む。既にギーシュへの怒りなど無くなっていた。 その代わり、浮かび上がってきたのは悲しみだった。さっきの一年生のように、あるいはそれ以上に涙が溢れ出してくる。 あるのはギーシュへの怒りだけだったはずなのに、どうしてこんなに悲しんでいるのか?どうしてこんなに涙が溢れ出てくるのか?わたしは何を悲しんでいるのか? わからない。わからないけど、悲しい。涙が止まらない。何もわからないまま、わたしはずっと泣き続けた。涙が止まったのは深夜になってからだった。 次の日、ギーシュがゼロのルイズの使い魔と決闘をして、逆にギーシュが負けたことを知った。 聞いた話によれば手に穴が開いて、杖を折られ、顔を踏みつけられるなど、相当足蹴にされたらしい。わたしはそれを聞いて、何も思わなかった。 いい気味だとか、大丈夫だろうかとか、そのようなことを何も思わなかった。ただ、ギーシュが足蹴にされたことをありのまま受け止めた。 それを実感したとき、自分はもうギーシュのことを好きでも嫌いでもなく、なんとも思っていないということを理解した。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1398.html
アルヴィーズの食堂。一日の勤めを終えた貴族たちが会話を楽しみ和やかな雰囲気で夕食を取る最中 ルイズは唇を尖らせ、不満気な表情で前の席に座る者を見つめていた。 「それで『土くれ』のフーケって盗賊なんだけど…」 「貴族の家ばかり狙うなんて大胆ね。怖くないのかしら?」 「フーケもメイジよ。たぶん没落した貴族ね」 ルイズはトリッシュと楽しげに会話をするモンモランシーを見て嫉妬していた。 苛立ちを紛らわそうとサイトを蹴ろうと思ったが、主人の命令を聞かないダメな使い魔を躾けようと食事抜きで 部屋で留守番させていた事を思い出して尚更苛立った。 (なによ!朝だって!お昼だって!色々喋ってくれたのにっ!!) ルイズはトリッシュに構って欲しくて何とか話しかけようとしているのだが、学院に入学してから一年が経つも 友人らしい者は一人も出来ず、周りには魔法が使えない事をからかってくる者か陰口を叩く者しか居なかった。 そんな者たちに寂しいからと言って自分から話しかける事などルイズのプライドが許さない。 その結果、同年代の子と何を話せばいいのか解らないのだが、それでも何とかして友人関係を築きたい、 落ちこぼれの自分を馬鹿にしないトリッシュと仲良くなりたいと思っていた。 (う~なにかキッカケがあればいいのよ…それなら私だって…) 何か話すキッカケが無いかと色々と考え、ある事に気が付いた。 (そうだ!すっかり忘れてたわ) 包帯の巻かれた自分の手を見て、朝も昼もトリッシュは手を怪我した自分を気遣って食事を手伝ってくれた事を 思い出してルイズはニンマリと笑い、ナイフとフォークを使ってメインディッシュに取り掛かる。 既に傷は治っているのだが、構って貰えたのが嬉しかったのでルイズは包帯をそのままにしておいたのだ。 (うふふ。これに気付くなんて私って天才じゃないかしら) 頭の中でトリッシュにあ~んされる光景を浮かべながら牛ヒレのステーキにナイフを突き刺した。 カチャカチャと音を立てて肉を切る。トリッシュは気付いていない。 今度はぎこちなくナイフとフォークを操ってみる。トリッシュは気付かない。 両方やってみる。やはり気付かない。 (音が小さかったかしら?) ガチャガチャと音を鳴らしながら肉を切る。気付いてくれない。 ナイフとフォークを頭の上で鳴らしながらチラチラ見てみる。全然気付いてくれない。 肉におもいっきりフォークを突き刺す。ステーキを載せた皿が割れて漸くこちらを見てくれた。 「ちょっとルイズうるさいわよ!食事くらい静かにしたらどうなの!」 トリッシュじゃなくてモンモランシーが反応した。 「うるさいわね!私は手を怪我してるのよ!お皿くらい割れるわ!!」 モンモランシーに怒鳴り返してルイズはトリッシュをチラチラ見る。何故か首を傾げていた。 「怪我、もう治ったんじゃないの?」 (なっ!なんで知ってるのよ!?) 動揺するルイズを見てモンモランシーがニヤニヤ笑う。 「彼女の傷を治したときに見といたのよ。ザンネンね~」 「なな、なんで余計なことしたのよ!べっ別に甘えたいなんて思ってないんだから!」 「あら?甘えたかったの?胸と同じで子供みたいじゃない」 赤面して混乱の極みに達したルイズが喚きたてるのを見て、トリッシュは自分が子供の頃を思い出した。 母親が身を粉にして働いていたとき、トリッシュはそんな母親に構って欲しくて悪さばかりしていたのだが、 それでも構ってくれない母親に自分が愛されていないのだと思い始めて、段々と悪さが非行までエスカレートして、 最後には同級生に麻薬を売り付けていたゴロツキの顔をナイフで刺して警察に捕まった。 捕まった自分を引取りに来た母に泣きながら頬を叩かれて、それで初めて自分が愛されていた事を知ったのだ。 自分より年上と知らないトリッシュはルイズがまだまだ甘えたい年頃と思い、その願いを叶えてあげることにした。 「私のは手を付けてないから良いわよね?」 「良いの?ホントに?!」 そう言ってトリッシュが肉を切り分け始めたのを見て、漸く構ってもらえるとルイズの顔が明るくなる。 しかし、モンモランシーのニヤついた顔を見てプライドを刺激されたルイズはそれを拒否した。 「べっ別に頼んでないんだから!勝手な事しないで!」 「はい、あ~ん」 フォークに刺さった肉がルイズの口元に運ばれる。先程まで妄想していた事が現実に起こっているのだが、 母親譲りの気位の高さが災いして逡巡する。 「どうしたのよ?食べないならいいけど」 「ちょ、ちょっと待ちなさい!食べないなんて言ってないわ!」 「じゃあ、あ~ん」 「アアア、アンタがどうしてもって言うから食べるんだからね!」 引き下げられるフォークを見て、結局誘惑に勝てなかったルイズは何故か睨んでいるモンモランシーの前で 赤面しながらフォークに齧り付いた。 「見てられないわ…私、部屋に戻るから」 そのやり取りに呆れたモンモランシーが食堂から立ち去るが、ご機嫌なルイズはそれに気付かない。 「そう言えばマリコルヌはどうしたの?」 「ああ、昼間のことで学院長に呼び出し喰らったわ」 「なに?アイツ何かやったの?」 うるさいマリコルヌが居なくて清々していたルイズであったが、話題がないので共通項であるマリコルヌの事を 何となく聞いてみたが、トリッシュが落ち着いた様子でとんでもない事を口にして聞かなければ良かったと後悔した 「大変じゃないの!どうするのよ?!」 「ヤバイんだったらこんな所で食事してないわ。きっと大丈夫よ」 突然の事で驚いたが、考えてみれば昼間起こった事ならとっくに処分が下されている事だろう。 それに話しによればミス・ロングビルが何とかすると言っていたのだ。何とかなったんだろう。 そう思い込むようにして不安を打ち消し、ルイズはトリッシュと楽しく食事を続けた ルイズがトリッシュと楽しく食事を取っているその様子をキュルケが遠くの席から見守っていた。 「ふう~ん。ルイズにも友達ができたみたいね」 この一年間、ルイズが一人で食事を取っているのをキュルケは不憫に思っていたが、プライドが邪魔をして食事に 誘えないでいた。もっとも誘ってもルイズは着いてこなかっただろうが。 「あ~ん」 横からタバサが大きめに切られた牛ヒレのステーキをキュルケに差し出していた。 「はいはい、二度も引っ掛からないから」 タバサの左手に隠されたはしばみ草が刺さったフォークを取り上げて皿に置くと、代わりにワイングラスを手に取る。 「好き嫌いは良くない」 「ダメダメ。嫌いなものは食べない主義なの」 親友の忠告を無視してキュルケはワインを口に含み、舌で転がすように味わって突然顔が歪んだ。 「フフ…はしばみ草の凝縮汁は……旨かろう…」 キュルケが盛大に吐き出し、アルヴィーズの食堂に虹が描かれた。